[チャート解析] 高配当株における権利付最終日と株価変動の関係

はじめに

配当利回りの高い株を高配当株と呼びます。配当金を得ることを目的に高配当株を保有しておきたいと考えることは、とても自然なことです。一方で、権利付最終日を越えると、株価が大きく減少してしまうリスクも存在します。そのためここでは、過去の日本市場のチャートを確認することで、高配当株の配当金を得るべきか、権利付最終日よりも前に売却すべきか考えてみます。

前提条件

以下の条件により分析を行います。

  • 2015年〜2020年に存在した3月末の権利付最終日(合計6回分)を分析対象とします。
  • 配当利回り(年間)が5%以上の銘柄を、高配当株と定義します。
  • 権利付最終日の±60営業日についてのみ言及します。
  • 欠損がある銘柄は分析から除きます。

これらの前提の外側については言及を行いません。例えば、9月末の権利付最終日については言及しませんし、2021年や2022年について述べるものではありません。

結果の示し方

結果は、以下3つのグラフで構成されます。

  • グラフA: 対象銘柄平均 → 配当利回りが5%以上、かつ、3月末に配当される全銘柄の株価を平均化したグラフです。グラフが視覚的にうるさくなるので、標準偏差のバーは示しません。
  • グラフB: 日経平均 → 文字通りです。
  • グラフC: 対象銘柄平均(日経除去→ グラフAをグラフBで割ったものです。日本の銘柄は、その多くが日経平均と連動します。これは高配当株も同様です。したがって、権利付最終日に向けて高配当株が上昇していたとしても、高配当を購入する投資家が増えることによる上昇なのか、日本市場の好調による上昇なのか切り分けることが難しくなります。逆に権利付最終日に向けて高配当株が上昇していなかったとしても、日本市場が悪かっただけで、その裏側には高配当株の上昇成分があるかもしれません。これを切り分けるために、日経平均の影響を除去することにしました。これがグラフCとなります。なお、日経平均を構成する銘柄にも高配当株がありますので、厳密な意味でこの規格化は不適切ですが、その数はとても少ないので、無視できる程度の影響と解釈しています。

なお、すべてのグラフは、権利付最終日の前後1年間の最小値を0、最大値を1とする規格化を実施しています。したがって、グラフA, B, Cの値の大きさに対する比較はできません(例えば、グラフAがグラフBよりも大きかったとしても、高配当株が日経平均よりも高いことを示すわけではありません)。同じグラフの中での時系列的な変化についてのみ、考察することが可能となります。

なお、本記事の結果や考察は個人の意見でしかありません。使用している株価のデータやチャート解析のプログラムにミスがあるかもしれませんし、分析に対する考え方がおかしいかもしれません。また、考察に妥当性がないかもしれません。したがって、実際の売買は自己責任で行ってください。


結果と考察

2020年3月末

日経平均と高配当株の実際のチャートの確認(グレー): 2020年3月末は、コロナショックにより大暴落が起きた時期でした。グレーで示した日経平均は大きく下落しています。この傾向は紫で示した高配当銘柄の平均でも同様です。一方で、高配当株は権利付最終日である3月末のみ上昇している傾向が見て取れます。この上昇は、日経平均の上昇よりも高いことがわかります。したがって、高配当株の配当を狙った上昇だと考えられます。

日経平均の影響を除去した高配当株の平均チャート(: 続いて、日経平均の影響を除去した青いグラフを見てみます。すると、3月上旬までは緩やかに上昇、3月中旬に急激に上昇していることがわかります。そして、権利付最終日以降は下降し続けることがわかります。

日経平均の影響を除去する前の高配当株(紫)は権利付最終日以降に上昇することが確認できますが、それはコロナショックから回復していく日経平均に連動しているだけなのかもしれません。すなわち、日経平均の予想ができない、あるいは、減少が示唆されるならば、配当金を受け取る前に売却してしまった方が望ましいという考え方も可能です。


2019年3月末

日経平均と高配当株の実際のチャートの確認(グレー): グレーで示した日経平均は権利付配当日に関わらず右肩上がりを続けることが確認できます(2018年12月に起きたクリスマスショックの回復を表しているものと思われます)。紫で示した高配当株の場合は、12月末に急激な回復傾向を示し、その後、権利付最終日まで似たような価格帯で維持されます。権利付最終日以降、日経平均は上昇し続けているのにも関わらず、高配当株は減少し続けることになります。配当金の価格にもよりますが、高配当株の配当金を受け取ってしまうと、次に売却する機会はしばらく訪れないという結果となりました。

日経平均の影響を除去した高配当株の平均チャート(: 続いて、日経平均の影響を除去した青いグラフを見てみます。この場合は、グラフに示したすべての期間において、減少傾向が確認できます。ただし、権利付最終日の直前に株価が急に上昇することもわかります。そのため、このタイミングで売却することが重要かもしれません。

配当金を受け取る、受け取る前に売却する、いずれにしても、2019年3月末はなかなか厳しい状況となりました。一方で、権利付最終日の直前に売却すれば、もっとも損害を軽減できることもわかります。このことから、配当金を受け取る前に売却するという戦略は有効であると考えられます。


2018年3月末

日経平均と高配当株の実際のチャートの確認グレー: グレーで示した日経平均は権利付最終日を谷底としたV字のような形になっています。権利付最終日付近において、日経平均が不調であったことを示しています。紫で示した高配当株は権利付最終日の翌日にわずかに価格を落としていますが、全体的な傾向としては全期間で下がり調子といえます。

日経平均の影響を除去した高配当株の平均チャート(: 続いて、日経平均の影響を除去した青いグラフを見てみます。これを見ると、権利付最終日に向かうに従い株価が少しづつ上昇、権利付最終日直前に大幅に上昇したのち、権利落ちのタイミングで急激に下降します(また、その後、安定して下降し続けます)。すなわち、紫で示した実際の高配当銘柄のチャートでパッとした傾向が見られなかった理由は、日経平均の不調が原因であると考えられます。日経平均の影響を除いたならば、あまりにも明白な傾向があることがわかりました。

紫で示した高配当銘柄の株価を見る限り、配当金を受け取りさっと売却してしまうという戦略も、権利付最終日の直前で売却するという戦略も、あまり大きな効果をもたらしません。しかし、日経平均の影響を除去したグラフ上で考えるならば、配当金を受け取る前に売却するという戦略が良いかもしれません。


2017年3月末

日経平均と高配当株の実際のチャートの確認グレー: グレーで示した日経平均は権利付最終日の少し前まで似たような価格帯となり、そこから減少し、4月中旬ごろに回復していく傾向が確認されました。一方、高配当株については2月上旬から3月中旬にかけて上昇し、権利付最終日の少し前から減少に転じています。権利付最終日前の上昇は、日経平均にはありませんでしたので、配当金を期待した購入による上昇なのかもしれません。

日経平均の影響を除去した高配当株の平均チャート(: 続いて、日経平均の影響を除去した青いグラフを見てみます。こちらは、権利付最終日は、紫のグラフと同じような形状をしています。そのため、配当金を期待した買いが増えているのかもしれません。傾向が大きく異なるのは、4月中旬以降です。日経平均の影響を除去する前の高配当株は上昇に転じているのにも関わらず、日経平均の影響を除去した場合は、下降が続きます。このため、4月中旬以降に見られた配当日以降の減少に対する回復は、単に日経平均の好調に連動していただけの可能性があります。高配当株そのものには、権利日以降、株価を上昇させる力がなかったことになります。

実際の高配当株のチャートを見るならば、5月ごろに株価が回復しますので、配当金を受け取る戦略は良い結果をもたらします。しかしそれは、日経平均が有する回復傾向の恩恵を受けたからであるという可能性が示唆されるので、注意する必要があります。日経平均の影響を除去した高配当株のチャート形状からは、権利付最終日以降、株価が回復するような傾向は見られませんでした。仮に日経平均が不調であったならば、高配当銘柄は日経平均以上に大きな下げを示したかもしれません。


2016年3月末

日経平均と高配当株の実際のチャートの確認グレー: グレーで示した日経平均と紫で示した高配当株は似たような傾向を示すことがわかりました。違う点があるとすれば、権利付最終日付近の下降タイミングです。日経平均は権利付最終日から少し遅れて減少していますが、高配当株は権利付最終日直後に下降に転じています。

日経平均の影響を除去した高配当株の平均チャート(: 続いて、日経平均の影響を除去した青いグラフを見てみます。この場合、権利付最終日に少し株価が上昇し、権利付最終日以降、下降し続ける傾向が確認されました。実際の高配当株のチャートと大きく違う点は、4月の傾向です。実際のチャートは4月上旬から下旬にかけて株価が回復しています。一方、日経平均の影響を除去したチャートにはそのような傾向が確認されませんでした。

実際の高配当株のチャートを見るならば、配当金を受け取り、4月中旬ごろに売る戦略は良い結果をもたらします。しかし、高配当株に見られた4月中旬の回復は、日経平均への連動に起因しているように見えます。日経平均の影響を除去したチャート上ではそのような傾向はなく、減少し続けますので、配当金を受け取る戦略はリスクが高いかもしれません。


2015年3月末

日経平均と高配当株の実際のチャートの確認グレー: グレーで示した日経平均を見てみると、常に右肩上がりの傾向を示しています。そのため、この時期の日本市場はとても好調であったことがわかります。紫で示した高配当銘柄も同様ですが、権利付最終日付近で株価が下落していることがわかります。

日経平均の影響を除去した高配当株の平均チャート(: 続いて、日経平均の影響を除去した青いグラフを見てみます。2015年1月から似たような株価で進展し、権利付最終日に大きく下落します。その後は下落した価格で進展することがわかりました。

実際の高配当株のチャートを見てみると、権利付最終日に向けて株価が上昇しているように見えます。しかし、日経平均の影響を除去したグラフ上ではその傾向が見られません。したがって、権利付最終日に向けた株価の上昇は、単に日経平均に連動していただけなのかもしれません。このため、日経平均の好調が存在しなかったならば、権利付最終日よりも前に高配当銘柄を購入しても、利益は期待できません。一方で、権利付最終日には大きく下落していますので、最終日に売却するという戦略は、利益をもたらさないまでも、損失を回避することには成功するのかもしれません。


まとめ

本記事では、2015〜2020年までの6年間について、配当利回りが5%を超え、かつ、3月末が権利付最終日である銘柄のチャートの平均値を、日経平均と比較することで俯瞰しました。実際の高配当銘柄のチャート(紫)と日経平均の影響を除去したチャート(青)で大きく傾向が異なることがわかりました。日経平均を正しく予想できる方であれば、紫のチャートで最適な戦略を考えると良いと思います。一方で、日経平均の予測が難しいと思う方は、青で示したチャートで望ましい戦略を考えた方が良いと思います。本記事の執筆者としては、日経平均の正確な予測は難しいというスタンスに立ちます。したがって、実際のチャートではなく、日経平均の影響が除去されたチャート(青)のみの傾向を述べます。この場合、

  • 6年間すべてにおいて、権利付最終日の当日および数日前に、株価が一時的に上昇する傾向が確認されました。
  • 6年すべてにおいて、権利付最終日の直後、株価の急激な下落が確認されました。
  • 6年すべてにおいて、権利付最終日以降の60営業日、株価が回復する傾向はありませんでした。
  • 6年間中、5年について、権利付最終日以降の60営業日、株価が徐々に下落していく傾向がありました。
  • 権利付最終日に向けて株価が徐々に上昇していくという傾向の有無は、その年によってまちまちでした。

といった特徴が確認されました。配当金を考慮して高配当株を売買する場合は、これらを踏まえると良いかもしれません。ただしこれらの特徴は、高配当株から日経平均の影響を除去した場合についてのみ発生することに注意してください。実際の株価は日経平均の影響が含まれますので、この特徴が必ず発生することは保証されません。また、2016〜2020年で生じていた特徴でしかなく、それよりも過去・未来においてこの特徴が生じることは保証されていないことにも、注意する必要があります。


自分も分析したいと思う方へ

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エクセルはとても簡単に身につけることができます。一方で、簡易的な分析手法しか使えない、人工知能などの高度な分析を行うことができない、大規模な分析を行うには途方も無いくらい莫大な時間がかかるなどのデメリットがあります。

pythonは取得がとても大変です。しかし、エクセルでは扱えないような高度な分析手法をいくつも使えますし、自動売買につながる人工知能を開発することもできます。また、リアルタイムのツイート解析で市場予測を行うこともできます。

このため、少しでも興味を持った方にはpythonの学習をお勧めしています。本ブログに、初心者向けのpythonの学習資料を公開していますので、ぜひご覧になって、学習してみてください。